つまずいても前へ!22歳女性の“一発試験奮闘記”

22歳の私は、免許センターの待合室で小さく深呼吸をした。
大学卒業と就職活動。この2つの節目が重なる中で、私は決意した。
「今こそ普通免許を取る時だ」と。
できるだけ費用を抑えたい。
そんな思いから、私は指定自動車教習所ではなく“未指定校”を選んだ。
MT車での受験だ。
教習予約は驚くほど取りやすく、学ぶペースもスムーズで、校内の練習は順調に進んでいった。
「意外といけるかも」
そんな淡い自信を胸に、私は仮免許試験の受験日を迎えた。
最初の壁 ― 仮免技能試験が想像以上に厳しかった
学科試験は余裕で合格した。
しかし、ここからが本当の勝負だった。
未指定校の受講者は免許センターへ直接乗り込み、平日昼間に技能試験を受ける。
慣れない雰囲気、静かな待合室、緊張感の増幅。
私はそのプレッシャーに飲み込まれてしまった。
初回の技術試験。
覚えたはずのコースを、緊張のあまり頭からすっかり飛ばしてしまった。
手の震え、喉の渇き、ペダルを踏む足の感覚まで不自然になる。
結果は、不合格。
理由も分かっていた。思うように運転できなかった。
2回目。
落ち着いて挑んだつもりだったが、「安全確認が不足しています」と試験官に告げられ再び不合格。
安全確認は練習でも注意された点だった。分かっているのに身体が固まってしまう。
3回目。
左折時、しっかり寄せたつもりが、直前で寄せが甘くなり不合格。
「またか…」
心の中でため息が響く。
4回目は、障害物回避の安全確認不足で不合格。
振り返ればどれも“ちょっとしたこと”の積み重ねだった。
だが試験では、その“ちょっとしたこと”が命取りになる。
5回目以降 ― 不合格通知が日常になっていく
回を重ねても、毎回違う問題が現れる。
右左折で後方確認が甘い、左折寄せが開く、右折の切り始めが早すぎる、左折の大回り、進路変更で不要な減速、低速時にハンクラッチを使い過ぎる、シフトアップがぎこちない、目視の瞬間にふらつく……。
“今日はここがダメだったのか”
“今度こそ改善したいのに”
そんな葛藤を繰り返し、気づけば試験回数は10回を超えていた。
まわりの受験者が初回・2回目で受かっていく中で、私は毎回同じ免許センターの廊下を歩いては落ち込み、帰っていく。
それでも諦めなかったのは、
「絶対に合格する」
その気持ちだけは揺らがなかったからだ。
そして迎えた18回目 ― いつもの風景が少し違って見えた
18回目の受験。
免許センターの試験官とは、もはやある意味顔馴染み。
車内には、あの慣れた“ペンが用紙を走る音”が響く。
私は深く息を吸い、これまでの注意点をひとつひとつ思い出しながらハンドルを握った。
左折の寄せ、ちょっと甘かったかな。
加速時のシフトアップが早過ぎてもたついたかも。
他にも細かい気になる点はいくつかあった。
それでも、私は最後の発着点へ戻ってこられた。
「今日もダメかな…」
そう思いながら、合否を待つ。
試験官は静かに口を開いた。
いつものように指摘箇所を淡々と読み上げていく――
が、今日は何かが違う。
「ここは以前より良くなっていますよ」
「この動作は安定してきましたね」
良くなった点を、初めて言われた。
不思議に感じ始めたその時。
「――合格です」
その言葉が耳に入った瞬間、世界が止まった。
「今言った点に気をつけて安全運転してくださいね」
試験官は微笑みながら、柔らかく言った。
その一言で、胸の奥に溜め込んできた寂しさ、悔しさ、焦り、努力――
すべてが涙となって溢れ出した。
私は泣いた。
止まらないほど泣いた。
18回目でようやくつかんだ仮免許。
これまでの苦労が一気に報われた瞬間だった。
本免試験 ― 不思議なほど冷静だった
仮免に合格後は、教習所で路上教習と特定教習を受け、いよいよ本免試験に挑む日が来た。
学科試験は再び余裕で通過。
問題は技能試験。
一般道を走るため緊張はあったが、MT車のギヤ操作にもかなり慣れ、車庫入れや方向転換も丁寧に指導してもらっていた。
当日、試験が始まってみると――
「あれ?」
というほど、あっという間に終わった。
大きなミスはなかったはず。
ただ、右左折時の寄せは“一般道では寄せすぎると逆に危険”という感覚が働き、少し控えめにした。
それがどう評価されるかだけが気がかりだった。
そして結果は――
「合格です」
あっさり言われた。
ただ、注意点はやはりいくつか伝えられた。
その言葉は、私自身も理解し感じていたことだった。
こうして私は“本免初回合格”を果たした。
嬉しさと同時に、
「もうこの場所に来られないんだ」
と少しだけ寂しく感じた。
無事に免許証が発行され、教習所へ報告に行くと、指導員全員が心から喜んでくれた。
あの免許証は、今でも私にとって生涯の宝物だ。
あれから15年 ― あの苦労は無駄じゃなかった
18回目でやっと受かった仮免技能試験。
他にそんな人いるのかな、と今でも思う。
だけど――あの経験があったからこそ、私は今、誰より慎重に、丁寧に、安全に車を運転できている。
そしてあれから15年、無事故無違反のゴールド免許。
あの苦しい日々は、
「安全確認の大切さ」
「慌てないことの重要性」
「学び続ける姿勢」
これらすべてを私に刻み込んでくれた大切な時間だった。
振り返れば、あの試験の積み重ねが、今の私の運転を確かに支えている。
もし、過去の私が今の私を見たら――
「諦めなくてよかったね」
と涙を浮かべて笑うだろう。
あの日の試験場に残してきた悔し涙も、
今となっては誇らしさへと変わっている。


